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医療判例紹介-先端的医療行為と説明義務

2014.08.25
【大阪地判平成20年2月13日(判タ1270号344頁)】

(事案)
交通事故により痙性斜頸を発症した患者が、前例のない先端的な治療法であるアドリアシン注入術を受けた後、水頭症、脊髄空洞症を発症し死亡したことについて、遺族らが病院に対し損害賠償を請求した事案。

(判旨)
「本件アドリアシン注入術は、アドリアシンを抗悪性腫瘍剤として使用するのではなく、神経ブロック療法の神経毒として使用するものであるから、アドリアシンの添付文書が想定する治療法とは前提を異にしている。したがって、本件アドリアシン注入術については、添付文書上の適応及び用法と形式的に異なっているからといって、直ちに医学的適応を否定することができず、添付文書以外の医学文献等に基づいて判断する必要がある。」
「アドリアシン注入術については、本件当時、新たな治療法として医学論文において発表されつつある段階にあったといえる。さらに、痙性斜頸に対するアドリアシン注入術については、本件当時、症例報告が存在せず、本件患者が最初の症例であったのであるから、本件アドリアシン注入術は、新たな治療法として発表されつつある段階にあったアドリアシン注入術を痙性斜頸の治療に応用する、前例のない先端的な治療法であったといえる。しかしながら、痙性斜頸に対しては、本件当時、標準的な治療法や根拠のある治療法は確立されていなかったのであり、試行錯誤の中で治療が行われていたものというべきであるから、先端的な治療法であっても、その医学的な合理性、有効性及び安全性等が認められるのであれば、当該治療法を実施するのにふさわしい高次医療機関において、しかるべき医師の下で、そのような治療を実施することも許される場合があるということができる。」
「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に不随する危険性、他に選択可能な治療法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される・・・。さらに、本件アドリアシン注入術は、新たな治療法として発表されつつある段階にあったアドリアシン注入術を、痙性斜頸の治療に応用する最初の症例であり、先端的な治療法であったことは前記のとおりであるが、・・・本件アドリアシン注入術を受ける以外に治療の選択肢がなかったとはいえないのであるから、先端的な治療法である本件アドリアシン注入術を受けるか否かは、患者が、本件アドリアシン注入術の具体的内容や先端的な治療法であることなどを十分理解した上で、自らの意思で選択されるべきものであったといえる。したがって、・・・被告病院医師らとしては、本件アドリアシン注入術を実施するに当たり、・・・患者が、本件アドリアシン注入術の内容や位置付けについて理解した上で、本件アドリアシン注入術を受けるか否かを判断する機関を与えるべき注意義務・・・があったというべきである。」

(コメント)
前例のない先端的な治療法を実施するに当たっての医師の説明義務違反を認めた裁判例。
なお、標準的な治療法ではない先端的な治療法の実施に関する説明義務が問題となった事例において、東京地裁平成12年3月27日判決・判例タ1058号204頁は、「実施しようとする特殊な治療法の具体的な内容及びその理論的根拠はもとより、患者の現在の状態(病名、病状)、実施しようとする特殊な治療法の一般の治療法との比較における長所及び短所、実施しようとする特殊な治療法と一般の治療法それぞれについての臨床における治療成績、実施しようとする特殊な治療法と一般的な治療法をそれぞれ当該患者に実施した場合におけるそれぞれの予後の見通し、その他一般の治療法を実施しないことが患者の自己決定を根拠として許容されるために患者が知っておくことが不可欠な事項についての説明」を、患者が理解可能な方法で行う必要があると判示している。


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