医療過誤を弁護士に依頼する意味(医療過誤で悩んでいる方に)
これまで高い信頼を置いていた医師(病院)が、適切な治療をしてくれなかったり、治療に失敗して、ご家族が死亡したり、自分自身が重い障害を負ったとき、医師に対する信頼の念が崩壊します。
医師(病院)の中には、これまでの経過を誠実に説明して謝罪してくれる方もいると思います。
病気それ自体は医師のせいではありませんから、医師が誠意を持って説明して謝罪してくれれば、すぐにとはいえないまでも、時の経過も加わり、次第に結果を受け止めることができるようになるかもしれません。
しかし、残念ながら、医師(病院)が、説明をおろそかにして、責任回避的な言動や誠意のない言動をすることもしばしばあるのが現実であり、当事務所のホームページをご覧になっている方は、そのように感じているお一人かもしれません。
日本国内の病院で、不適切な治療の結果、年間数万人が死亡しているという研究報告もありますが(これが真実だとすると、交通死亡事故の数倍です)、そのうち刑事事件になるものはほとんどなく、これからご紹介する医療過誤訴訟となるものも、ごく少数です。
結論から言えば、医療過誤の被害者の方が自ら動くことなく、医師(病院)に適切な反省の機会と制裁を与えてくれるところはないと言っても言い過ぎではありません。
このことは、私たちに最も身近な交通事故での死亡事故と比較するとよくわかります。
交通事故でご家族が死亡すれば、遺族の要請を受けるまでもなく警察がその事故の原因を捜査し、加害者に過失があれば裁判所で刑事処分が科されます。
また、公安委員会が警察の捜査結果等に基づいて加害者の運転免許を取り消したりします(行政処分といいます)。
さらに、加害者は自賠責保険に入ることが義務づけられており、任意保険にも加入していることが大半ですので、加害者の保険会社から賠償に関して連絡が来るというのが通例です。
ところが、同じ死亡事故でありながら医療過誤の場合には、警察が遺族の要請を受けることなく事故原因を捜査することはほぼ皆無であり、したがって医師免許の停止・剥奪(行政処分)もなく、病院の保険会社から賠償に関してご遺族に連絡が来ることなどまずありません。
交通事故でも被害者のご遺族の精神的ショックははかりしれないものがありますが、医療過誤ではなおさらです。医療過誤では、ご家族の死亡に至る経過(納得のいかない経過)をご遺族がつぶさに見ていることが多いからです。
しかし、何故死亡したのか、治療に問題はなかったのかなどについて、医師(病院)の側から積極的に説明されることはあまりなく、ご遺族の側から説明を求めても誠意ある説明もないことが多いのが実情です。
勢い、ご遺族は感情的になり、医師(病院)は防御的・責任回避的になりがちになります。
しかも、交通事故とは異なり、ことは医学の問題ですから、素人であるご遺族にはほとんど知識もなく、正確な事実関係を把握することもできないまま、怒りが増すばかりということになります。
交通事故であれば、素人的にも原因がある程度理解できますし、先程述べたとおり警察も捜査してくれますので、何故死亡したのかについてある程度理解可能ですが、医療過誤ではそのような枠組みに欠けているのです。
残されたご遺族は、家族が何故死亡したのか原因を知りたい、医師から謝罪してもらいたいとの思いで、県や自治体の医療関係の部署を訪問したり、医師会を訪問したりすることもあると思いますが、残念ながら、いずれの機関もご遺族の立場で原因の究明をしてくれる機関ではありません。
警察にも相談することもあるでしょうが、警察は医療について専門的知識を有しているわけではなく、証拠のない中で捜査をすることも困難ですから、解決してくれる機関にならないのが実情です。
ご遺族は孤立無縁であるとの思いを強くされることも多いと思われます。
医療過誤事件においては、ご遺族はお金の賠償を求めているわけではなく、
「事実が知りたい」
「医師(病院)に過失があり責任があるのなら、謝罪してほしい」
「死者の尊厳や名誉のために正義を回復したい」
「きちんと対応して、気持ちにけじめをつけたい」
「二度と同じことがおきてほしくない」
という気持ちを抱えておられるものだと思います。
しかし、真にご遺族の気持ちに沿って解決してくれる適切な制度的枠組みは、現在のところ存在しません(そのような枠組みを作る試みがされていますが、現実化にはまだまだ時間がかかるものと思います)。
ご遺族や患者さんご本人の思いを医師(病院)に届けて、「何があったのかを知りたい」「医師(病院)に責任をとってもらいたい」との希望を不完全ながら果たすことができるのは、「医療過誤訴訟(民事上の責任追求)」以外にはないというのが実情です。
もちろん、医療過誤訴訟しかないというのは、すぐさま裁判所に訴訟を提起するということではありません。
ご遺族、患者さんが、弁護士の行う事実関係の調査、検討、医師(病院)との交渉というプロセスの中で、事実を確認することができた場合や、謝罪を受けることができた場合には、訴訟となることなく一定の解決を得られることもあります。
そのような中で、何らかの解決が得られない場合の最後の手段が、医療過誤訴訟ということになります。
ご遺族、患者さんは、専門家である医師に裏切られたという経験の持ち主ですから、医療過誤で弁護士に相談する場合でも、専門家である弁護士に対しても厳しい目を持っていることが多いと思われます。二度と専門家に裏切られたくないと。
弁護士は法律の専門家ではありますが、医療については素人であり、一般的には医師の知識等に太刀打ちできるものではありません。
したがって、生半可な知識で適当な事実調査をしてことにあたれば、ご遺族、患者さんの失望を買うだけとなり、専門家責任を生じかねません。
医療過誤を取り扱う弁護士は、その意味で特殊なところがあり、医学知識に欠けても熱意があればできるというものではないと言っていいでしょう。
医師や弁護士などの専門家も、その能力には限界があり、ミスをすることはあり得ると思いますが、医療過誤を取り扱う弁護士には、ご遺族、患者さんの気持ちに共感しつつ、その希望を正確に把握した上で、尽くせる限りの努力をした上で、誠意をもって説明義務を尽くすことが求められているものと思います。
しかし、このことは、ご遺族、患者さんの言い分のみを無批判に取り上げることを意味しません。
問題点を正確に把握した上で、医師(病院)の過失をとらえることが困難であると判断されれば、そのことをご遺族や患者さんに説明することが、弁護士の義務です。
また、過失があると考えられる場合でも、現在の訴訟の実情に照らせば裁判所がこれを取り上げてくれない場合もあると考えた場合には、そのことも正確に伝えることが義務です。
さて、最後の手段としての医療過誤訴訟では、制度上、「金銭の賠償」を求めること以外はできません。
ご遺族や患者さんは、真実が知りたい、謝罪をしてもらいたいというのが望みですが、民事訴訟の枠組みは、死亡事故であれば、その事故について誰に過失があるか、損害はいくらを判断するだけのもので、ご遺族や患者さんの望みに必ずしも沿うものではありません。
しかし、前述のとおり、訴訟に至るプロセスの中で、かなり正確な事実経過を知ることが可能であったり、場合によっては医師(病院)が過失を認めて謝罪をしてくれることもあります。
また、やむを得ず訴訟となった場合でも、医師(病院)の過失の有無を判断する審理の中で、事実経過が判明したり、担当医師の証人尋問を行い、その際にこれまでには聞くことのできなかった説明を医師本人から聞くことも可能な場合があります(法廷が説明責任を果たしてもらう場所となります)。
制度の枠組みとしては、民事訴訟は賠償責任の有無だけが問題となりますが、その過程の中でできる限り、ご遺族や患者さんが求めているものに近づけるのが、医療過誤を取り扱う弁護士の役割であると思います。
極端なことを言えば、医療過誤訴訟は、賠償額の多寡だけを目的とする裁判ではなく(勝ち負けだけの裁判ではなく)、傷ついたご遺族や患者さんの気持ちに整理をつけたり、正義を回復するための裁判でもあります。
そして、その中で医師(病院)も真摯に反省をして、今後の医療体制の見直しをしたりすることとなれば、将来の医療過誤の防止にもつながることになります。
交通事故とは異なり、黙っていても解決することができないのが医療過誤です。
ご遺族や患者さんの精神的負担、経済的負担も少なくないものがありますが、なるべく早期に医療過誤を適切に取り扱うことができる弁護士に依頼をすることが、第一の選択になると思います。
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