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弁護士の報道対応① 事件報道の背景

2014.02.03/【堀田 伸吾】

連日のようになされる事件報道。被疑者が逮捕された、近所の人の話では近隣トラブルも起こしていた、学生の頃はこんな人物だった、被疑者の日頃の仕事ぶりはどうだった等々、逮捕直後から次々と報道される情報を、みなさんはどのような視点で見ているでしょうか。今回は、刑事弁護人の立場から、事件報道の背景について書いてみたいと思います。

弁護士とメディアが深い関わりを持つ場面の一つに、刑事事件があります。特に社会の関心を集める重大な事件では、発生直後から判決に至るまでの様々な段階で事件報道がなされます。被疑者の弁護人となった弁護士も、被疑者の言い分は何なのか、弁護人に対してどんな話をしているのかなどといったことについて、記者から問い合わせを受けることがあります。そのときに弁護人として積極的に取材に応じ、被疑者の言い分等を公表すべきか否かという問題は、弁護人の職責と絡んで弁護士間でも議論のあるところです。

たとえば、メディアが、捜査機関からの情報に基づき、被疑者が犯人であるかのような報道(有罪視報道)をしたとします。ところが弁護人が被疑者と面会したところ、被疑者が事件当日に犯行現場には居なかったというアリバイを述べた場合、弁護人として、被疑者にアリバイがあり無実であることを公表して積極的に社会に訴えていくべきか否かという判断が必要となります。そのときに判断の基準となるのが、弁護人が負う「守秘義務」と「最善努力義務」という二つの職責です。


「守秘義務」(弁護士法23条)とは、弁護士が依頼者から聞いた情報等を他人に漏らしてはいけないという義務です。この守秘義務があるからこそ、依頼者は人には言いにくい話でも安心して弁護士に相談したり依頼したりすることができるわけです。刑事事件においても、弁護人となった弁護士は被疑者から聞いた話を他人に漏らすことは本来許されません。ただし、被疑者が情報を外部に公表することに同意した場合には、守秘義務が解除され、弁護人がメディアに被疑者の言い分を公表することが可能となります。
では、被疑者が同意すれば何でも公表してよいのかというとそうではなく、「最善努力義務」(弁護士職務基本規程46条)、すなわち、被疑者の防御権保障の見地から最善の弁護活動に努めるという刑事弁護人の職責との関係から、公表が被疑者の利益になると判断されない場合には、やはり公表は差し控えるべきということになります。
つまり、刑事弁護人として被疑者の言い分をメディアに公表すべきか否かを判断するにあたっては、①被疑者の同意の有無と、②公表が被疑者にとって利益となるか否かがメルクマールとなるのです。


実際の弁護活動では、公表が被疑者にとって利益となるか否かという点について、難しい判断を迫られることがあります。
逮捕当初より被疑者の言い分を積極的に公表して無実であることを社会に訴えた結果、有罪視報道がなされることなく、刑事事件としても無事釈放となり、社会的にも被疑者の名誉が守られるというケースも実際にあります。一方で、被疑者の言い分を早々に公表したところ、その後の捜査で被疑者の言い分と矛盾する証拠が見つかり、被疑者が虚偽の供述をしたという経過が浮き彫りになってしまうこともあります。
後者の場合、最善努力義務の観点からは、結果として、被疑者の言い分を公表したことが被疑者の利益にはならなかったということになります。そのような事態を避けるべく、弁護人としては、被疑者の言い分を公表することが被疑者の利益になるという「確信」を得た上で、公表に踏み切ることが重要となります。


ここで、被疑者にとって利益となるか否かは、裁判でどのような主張を展開するのか、つまりその事件における弁護方針に照らして判断されます。弁護方針に照らし、被疑者の言い分をメディアへ公表することが被疑者にとって利益になるという「確信」を得るためには、揺るぎない弁護方針が確立されていることが前提となるわけです。
刑事事件における弁護方針は、被疑者の供述内容のみならず、あらゆる証拠を総合的に検討し、事件の全体像(事実関係、証拠の内容等)を把握することで、初めて揺るぎないものとなります。しかしながら、特に捜査段階においては、事件に関する情報の多くは捜査機関のみが把握しているのが通常で、弁護人に対しても十分な情報が与えられず、事件の全体像を把握することが困難であるのが一般的です。弁護人としても、被害者の言い分と矛盾する証拠が存在するのであれば、被疑者に対し合理的な説明を求めたり、あるいは真実を話すよう説得を試みて、弁護方針を確立していくことができますが、捜査が終了し事件が起訴されるまでは、捜査機関の保有する証拠が弁護人に対して開示されることはありません。そのため、捜査段階においては、弁護方針を確立し、これとの関係で被疑者にとって利益になるか否かを「確信」を持って判断することがそもそも難しい場合が多いといえます。
このような理由から、被疑者が逮捕されてから起訴されるまでの間は、捜査機関が公表する情報等がメディア報道の中心となり、被疑者が弁護人に対してどのような話をしているのか、被疑者の言い分はどんなものなのかは詳しく報道されないことが多いのです。


捜査段階の報道は、基本的には捜査機関のバイアスがかかった情報に依拠する部分が多く、取材するメディア側においても、被疑者の言い分を含めた事件の全体像を未だ正確に把握できていないことが通常です。このような背景が分かると、事件報道の見方が少し違ってくるのではないでしょうか。

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