本文へジャンプする

弁護士ブログ

ブログ

少年事件の裁判員裁判

2012.07.11/【堀田 伸吾】

来週から、県内初となる少年事件の裁判員裁判が始まります。
少年事件の裁判員裁判特有の問題点について、少し整理してみたいと思います。

少年事件と成人事件の違い

少年事件は、未成熟な発達段階にある子どもを対象とすることから、成人の刑事事件とは根本的な違いがあります。

一つの大きな違いは、少年の成長発達を視野に入れながら、更生と再犯防止を図る、「保護主義」と呼ばれる少年法の理念が機能する点です。
そのため、少年事件の裁判を担当する裁判員には、成人の裁判以上に、少年の内心や成育歴、周囲を取り巻く環境などについて分析し、少年の更生にとってどのような処分が必要なのかを考える姿勢が要求されることになります。

成人事件とのもう一つの大きな違いは、少年のプライバシーや情操の保護という点です。
刑事裁判は原則として公開の法廷で行われます。裁判員裁判でも、公開の法廷で、被告人の個人情報や証拠の内容が明らかにされることになります。
ところが、少年事件では、法廷で少年のプライバシー情報が公表される結果、少年の社会復帰や今後の生活が著しく困難となる場合も生じるおそれがあります。
この点については、固有名の匿名化や証拠調べの工夫など、法曹三者において十分な配慮を行う必要があるのはもちろんのこと、裁判員としても、目の前の被告人が未成年であることを念頭に置いて、十分に配慮しながら審理に臨む必要があります。

少年法の理念と裁判員制度のジレンマ

少年事件は、通常、家庭裁判所で「少年審判」という手続に付されます。
そして、少年審判では、「社会記録」という特有の記録が作成されます。
社会記録の中には、少年の生い立ちから現在までの成育歴について、調査結果が詳細に記されています。
審判を担当する裁判官は、保護主義の観点から、社会記録の全体を把握し、少年にとって最善の処遇を探ります。

少年審判の結果、家庭裁判所の裁判官が、刑事処分が相当であると判断した場合には、事件が検察官に送致され、成人同様、刑事裁判に付されることになります(少年法20条)。
少年事件の刑事裁判においても、社会記録は重要な意義を持っています。そのため、従来は、刑事裁判を担当する裁判官が家庭裁判所から社会記録全体を取り寄せて、裁判期日外にこれを読み込むという手法がとられていました。
ところが、裁判員裁判では、制度設計上、裁判員にとって分かりやすく、かつ負担の少ないコンパクトな立証が求められます。
そのため、少年事件の裁判員裁判では、社会記録全てを法廷で明らかにするのではなく、なるべく必要な範囲を絞ろうという意識が働き、必要な判断材料が法廷に顕出されないことがあり得ます。
実際、これまでに全国で行われた少年の裁判員裁判の中では、社会記録の一部分だけが裁判での証拠として提出され、その大部分が証拠とならず、裁判員の目に触れることはなかったという事例も報告されています。
また、少年心理に詳しい専門家証人など、専門知識を持った方の証言も本来は積極的に取り入れて判断を行うべきですが、裁判員裁判では専門家証人の採用に消極的な傾向が懸念されています。

このように、少年事件の裁判員裁判では、一体性を持って扱われるべき社会記録の一部だけしか証拠とならなかったり、あるいは専門家証人が裁判で採用されないなどにより、判断材料が不足し、少年の成長や更生を目指すための処遇決定が困難になるのではないかという問題が指摘されています。
保護主義という少年法の理念と、分かりやすさを旨とする裁判員制度が衝突する場面であり、とても難しい問題です。

少年の心身への配慮

少年事件の裁判員裁判における課題の一つに、少年の心身への配慮があります。
少年が法廷において萎縮してしまい、言いたいことを言えない事態は避けなければなりません。
この点については、全国的には、固有名の匿名化や、少年と傍聴席の間に遮蔽を設けるなど、一定の配慮がなされているようです。
他方、少年の年齢や知的能力の問題から、少年が長時間の審理に耐えられない場合もあり、丸一日審理が続いたことで、少年が辛そうにしていたというケースも報告されています。
裁判員の拘束時間は長くなってしまいますが、少年事件の性質上、審理日程や時間については余裕をもって確保しておくことが必要です。

保護処分相当性の判断

少年事件では、少年の置かれた環境や成育歴などが犯行に大きく影響している場合があり、少年の更生意欲や環境改善などにより、少年の立ち直りが強く期待できることもあります。
少年が刑事裁判を受ける場合、結論の一つとして、事件を再び家庭裁判所に戻し、保護処分(保護観察や少年院送致など、少年の更生に向けた処分)に付するという選択肢があります(少年法55条)。
犯罪行為だけでなく、少年の背景事情にも目を向けて、少年の更生、再犯防止のために適切な処遇は何かを慎重に検討することが肝要です。
保護処分が相当かどうかの判断については、専門機関である家庭裁判所が一度は刑事処分相当と考えたことを重視する考え方もありますが、裁判員裁判においては、まさに保護処分相当性の判断こそ、裁判員の持つ一般市民としての視点や感覚を活かせる場面なのではないかと思います。

少年事件と裁判員裁判は、非常に難しい問題をいくつも含んでおり、そもそもこれらの問題の克服が困難なので少年事件を裁判員裁判の対象から外すべきだ、という意見もあるところです。
いずれにせよ、全国各地で少年事件の裁判員裁判が相当数行われてきている中、分析と検討が必要な時期にさしかかっています。

ご相談の予約はこちら

  • 新潟事務所:025-225-7220

受付時間:9:00~17:00(月~金)
夜間、土日も可能な限り対応します。

初回相談料
3,300円 [税込]/30分

(個人の方の場合)

ページの先頭へ戻る